都市で育まれるコミュニティ
人と人が緩やかに繋がりあう地域のコミュニティスポット。
まちの人が集まる魅力的な場所には、必ず地域の立役者がいます。円滑な関係を築くための空間の活かし方やコミュニティ活性の秘訣を探ってみました。
職能を活かして、まちのプレイヤーになる
1階で商売、2階で居住という、昔ながらの職住一体の風景が残る中津商店街。梅田駅から徒歩10分圏内という商店街からは、梅田の高層ビルも望める。「子育てをする上で、地域コミュニティがある環境を求めていた」と話す、建築家の岸上純子さん(SPACESPACE・OCT専任教員)。
もともと東住吉区の長屋で生まれ育った岸上さんは、この場所に子どもの頃の原風景を感じたそう。約4年半前に夫婦・子どもの3人家族で引っ越し、商店街の長屋を改修して自宅兼建築事務所を構えた。自ら大工仕事をしながらの家造り。
仮囲い塀に覗き窓をつくって、通りすがる人たちが変化する現場を自由に覗けるしかけを用意した。
「何ができるの?」「いつできるの?」と地域の人が自然と興味を持ち、完成する頃にはすっかり地域の人と打ち解けていた。商店街に賑わいを取り戻したい!という思いから、10年前に廃止となっていた中津商栄会を復活させた。
以降、近隣の飲食店や企業・団体と共に作り上げる祭り「ぼんぼん祭り」や商店街の飲食店巡りも楽しめる「中津商店街のツキイチ屋台」などの企画を通して、まちと人、人と人との接点を生み出している。「近年建築家には建物を建てることと同様に、まちづくりのための企画という役割も求められています。中津商店街の魅力を発信して、多くの人に存在を知ってもらいたいです」
岸上純子さん(SPACESPACE・OCT専任教員)
詳しくはこちら▶https://www.osaka-angenet.jp/ange/ange87/3000665
歴史をつないで、「懐かしい未来」をつくりたい
「子どもの頃に憧れていた屋根裏部屋が、天井裏に隠れていたんです。改修しなければわかりませんでした」と嬉しそうに話す、一般社団法人いくのもりの渡邊芳枝さん。
両親が営んでいた米穀店兼住居の空家を改修し、2021年4月に畑と建物が一体化した『はたけもりHATA・ L ab×COME・ L ab 』をオープンした。
入り口から一歩入ると、古く大きな梁が見下ろす土間と小上がりのキッチンがある、吹き抜けの空間が迎えてくれる。
天井に伸びるはしごを登れば、屋根裏部屋にたどり着ける。大阪市の空家利活用改修補助事業を利用することで、古い空家が懐かしさと新しさの融合するオープンスペースへと生まれ変わった。
渡邊さんは長年、大阪市内を転々とする市民活動「ラウンドおおさか」を運営してきたが、これからは、生まれ育ったまち生野に軸足を置き、『はたけもり』を拠点に、生野の〝懐かしい未来〞をつくる活動を行なう。父が米穀店を営んでいた当時からつながりのある近所の人は、〝芳枝ちゃん、ここに何ができるんや?〞と、改修中に何度も立ち寄り、その度にまちの昔話を聞かせてくれた。生野は家内工業が盛んなものづくりのまちで、渡邊さんも子どもの頃に内職をしていたことを思い出したそうだ。
「キッチンの吊り棚を製作した製作所さんは、生野で祖父の代からの事業を引き継がれており、改修工事を行った工務店さんも生野の事業者さんです。
設計を手掛けた生野区在住の伊藤千春さん(イトウチハル建築設計工房 OCT卒業生)も、生野を紹介する地域情報サイト『桃谷ロイター』を運営するなど地域との交流が深い方です。
改修を通して家の歴史やまちのことが改めて分かったり、生野のまちと人が交流するきっかけになっていることも、この取り組みの特徴かもしれません。
伊藤千春さん(イトウチハル建築設計工房 OCT卒業生)
詳しくはこちら▶https://www.osaka-angenet.jp/ange/ange87/3000664
詳細は住まいのガイドブック「あんじゅ」
*記事や写真の提供は大阪市立住まい情報センター